「中世末期の遠近法表現、ルネサンスの空間表現へ・・・」
チマブーエ(1240-1302)の様式はギリシァの画家の影響を受けています。
<玉座の聖母子>は壮大な祭壇画です。
祭壇画の様式は聖母子の格好・衣を金色の線条模様であらわしていることから
あきらかです。
さらにチマブーエはビザンチンのモザイクのモニュメンタルな効果を
絵画によって表現しようとしました。玉座のあらわす効果は真直ぐ天へ向かう垂直性の強調がみられます。
ドゥッチョ(1255-1318)はチマブーエより精妙かつ完成鋭敏な色彩家でした。
<マエスタ>は幅4メートルを超える大祭壇画です。中央に聖母マリアを配し、まわりに聖者や天使を配し、上方のアーチに預言者を描いています。
聖母マリアと幼児キリストのポーズは、ドゥッチョがビザンチンの伝統を守っていることを示しますが、
群像描写はゴシック様式によって描かれています。
この群像表現は奥へ向かう空間はみられません。
すでにギリシア様式はみられず、衣紋は柔らかい質感をもち、金色の線による抽象的な逆陰影法は減り、身体や顔は微妙な三次元を帯びつつあります。
聖母の座る椅子は左右対称となり、奥行き方向の線を延長し、
交点を求めると中心線上に縦に並びます。魚骨的構成は線遠近法への近づきを感じさせます。
<キリストのエルサレム入城>では複雑な空間構成の舞台に50人以上の人物を登場させています。
場面を前景に展開させた鳥瞰図法的(ちょうかん)に見渡す視点は画期的なものです。<聖母への死のお告げ>は室内空間が描かれ、
部屋の奥行き方向の線の交点は中心軸上で縦に並ぶ魚骨的構成です。なにより新しい試みは、室内に人物を配置したことです。
ジョット(1266/7-1337)はビザンチンの伝統からの決定的な訣別(けつべつ)を示しました。
ヴァザーリ(1511-741)はジョットを、「自然からのみ学んだゆえに、自然の弟子というほかに呼びようがない。」と述べています。
すぐれた観察から力強い三次元的現実性を与え、体験的に空間をあらわそうとしました。
<玉座の聖母子>をチマブーエの同じ主題の作品と比較するとその評価が納得できます。
ジョットもチマブーエも聖母マリアを儀式的に表したものであり、伝統的な金色の背景を用いているので、遠景が全くありません。
しかし、重さと質量、光と奥行きの関係は突然の変化を見せます。
チマブーエの天使の不確かな位置とは対照的に、ジョットの天使の立つ位置には安定感があります。光源は定まらず拡散していますが形を強く際立たせて、彫刻のような量感をつくりだしています。
けれど、聖母子は天使のほぼ2倍の大きさで描かれ大小の比率は現実のものではありません。
ジョットは立体表現には長けていましたが、視覚的統一という概念は受け入れられませんでした。<サン・フランチェスコ伝>の連作の<聖ダミアーノ聖堂にある十字架のお告げ>では、
壊れかけた教会が画面に傾斜する角度で描かれています。水平方向に線を延長すると二点の消失点が求められます。
高さは一致しないのですが、
まだ当時は線遠近法の理論が知られていない時期にこの描写は驚くべきものです。
スクロベーニ礼拝堂のフレスコ画<アンナへのお告げ>では、
線遠近法的に室内を描いており、ジョットによる線遠近法的表現は、まさにルネサンスの空間表現への移行を感じさせるものでした。
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